ラボを捨て、ビーチに出よう

Love-tuneから7ORDERへ:どこにいたって君がアイドルだ

TXT vol2. 「ID」 3回目(ネタバレあります)

 6月21日(月)に3回目の舞台IDを見てきました。この日は視界を遮るものがない、素晴らしいお席で、出演の役者さんたちの、そして応援する萩ちゃんの、迫力あるお芝居をしっかりと見つめることができて本当によかったです。そんな訳で、まだ全然まとまらないのですが、この日の感想を書いておきたいと思います。

  • この舞台を見て、まず感じるのは「圧倒される」ってこと。崎山つばささんと松田凌さんのコンビの強くて、舞台終わりまでずっとその強さが変わらないというか増すばかりなのに、どこまで強めてもほころびがでない精度の高い演技(例えるなら崎山さんが大きな日本刀で、凌さんはマタギの持つ鉈のよう)。蘭々さんのこんなにカッコよかったんだと、真のエイジレス、ジェンダーレスをすっと納得させるような存在感のあるお芝居、井上小百合さんの一心に貫き、肌を焼きつかせヒリヒリと記憶を残すような骨太の演技。小野塚さんの「本当の人間」とでもいいたくなるようなしみじみと暖かででもくっきりとした人間的な形と情感。個人的には一番一人二役の機能を存分に発揮した感のある砂川さん(ホープの笑顔が好きすぎる)。そして黒川さんと勝亦さんの綺麗に舞台に仕切り線を引いていくようなシュアな雰囲気。回を重ねるごとに、この複雑で激しい舞台の中でスイスイと泳いでいくように、その強度を増していく役者の方々。本当にその「強さ」には驚嘆してしまうのでした。
  • そんな中でも、萩ちゃんの図書委員も脚本の設計図通りというのか、少しずつ進化していくAIのように、プログラマーとしてのエキセントリックな志向性と、次第に生まれてくる感情の力にさいなまれていくというか、ある一点でその苛まれが愛に変わるような、その繊細でもあるふり幅をかなりきっちり感じさせてくれていよかったな。リセットされた後の更にやる気を見せる中で、そのやる気が「なんのためなのか」「誰のためなのか」を感じさせるような揺らぎのある響きと一瞬だけすっと流れる涙が本当によかったなあと・・。それにしても、まったく地声ではない図書委員の声をずっと長い間、あれだけコントロールできる萩ちゃん、本当に何者?(個人的にラジオでの滑舌はなんなん?ってのもあるw)
  • きっとこれは役者萩ちゃんを見ていて、これからもずっと思うと確信しているところだけれど、自分とは異なる姿かたちや人格を演じることへの愉びみたいなものが溢れちゃうタイプの役者さんであったり、それが動物であれ、人間であれ、モノであれ、平等な存在としてフラットに、でも強烈に愛情を注いで演じることのできる役者さんなんだと思う。奇しくも前に応援していた役者さんとその点ではとっても似ている。「好き」の気持ちが溢れている演技をこれからも見せてね・・。
  • そうそう、前回の観劇で「このお話は少しずつ前に進んでいるループものである可能性がある」と思ったのだけれど、今回の観劇で、図書委員の登場シーンの感情のプログラムをする時にほっぺを内から舌で押して膨らましてたり、広報委員ちゃんの後ろで動きの真似をする時の動きが更に激しくなっていて、ますます最初からちょっと面白い子になっていたのとか、そして感情が生まれてくる頃の強さも更に強くなり、リセットされても初期値が上がっている!と思ったのでした。それを思うと、千穐楽ではどういう結末を迎えるのか更に興味が湧くのでした。
  • 今回の観劇でとても感じたのが、美化委員&ホープの言動の重要性。ビリーが宣言する「感情のパンデミック」の一番大きな引鉄になったのは美化委員の動きだったと思うんですよね。まず基本として、AIである委員たちが次々と感情を発露するようになるのは、基本的にアバター(実は人間)たちの必死の感情の発露を見てそれに刺激されてと言ういわば接触感染経路があると思うんですね。一方で、美化委員がホープの脳に乗り移った後に、委員たちの感情化が爆発的に進むことを考えると(例えば図書委員のRAPシーンなど)、ホープの身体に残っていた感情や記憶が美化委員のAIの根幹を乗っ取ってしまったからなのかもしれないと考えられるんじゃないかと。そして、委員のAI同士は互いに繋がってネットワークを形成しているので、本体に憑りついた感情が深部から影響を広げて、感情のパンデミックが生じたのかなあと。そんな変化を生じさせたものこそ、「ホープ(希望)」であると想像すると一人ぐっときたりしてしまうのでした。
  •  委員のAIがお互いに繋がってネットワークを形成しているのを象徴しているのが、冒頭の委員会メンバーのダンスですよね。あのPerfumeちっくな、要素と要素が絡み合い、一つの構成体をなすようなめちゃカッコいいダンス。あのダンスリーダーを萩ちゃんが務めていると聞いた22日の配信後インタビューで更にそう確信したのでした。繋がる設計が、知性を高め、そして感情を共有し、社会というものを生み、更なる新たなフェイズに入っていく。それは、最初の基本設計によって不可避なことなのかなあと思うのでした。それにしても、萩ちゃんのダンスめちゃめちゃいいですよ。センターに出てきて、右腕でレッツゴーみたいな合図をする仕草が本当に決まっていて、前事務所の時もあったよなあと、そしてずっとダンスが上手くなった今、こういう舞台で踊っているのにめちゃやられるのでした・・・。

  • さて、そんなアイドル的ダンスがある舞台ですが、8つの色と感情と役割があるという設定はとてもグループアイドル論な訳ですが、パンフレットを見ていたら、崎山+松田+萩谷が芝居を語り、小野塚+砂川がライダーを語り、蘭々+井上でアイドルを語っていたので、きっとグループアイドル論というかそういう組織(であったり人間の構造であったり)は想定されているんだろうなあと。
  • 行くたびに大事な発見がある舞台ID、ほんと面白いなあ・・。最後、一体、どのような条件ならばリセットされなかったのか・・そこまで考えられるといいなあと思う今日この頃です。