ラボを捨て、ビーチに出よう

Love-tuneから7ORDERへ:どこにいたって君がアイドルだ

いのちを燃やし尽くすこと

 先日、観劇した三浦宏規くん・川平慈英さん主演のミュージカル「ナビレラ」と劇団おぼんろさんの第24回本公演「聖ダジュメリ曲芸団」がとてもよかったので感想をしたためておきたいと思います。

 前者は日比谷シアタークリエにて認知症と診断された一人の男性が少年時代からのバレエへの憧れに突き動かされその夢をかなえていく、そしてその男性の先生役となった才能はあるけれどくぐもった気持ちのまま荒んだ生活をしていた若者が男性との交流の中で本当に大切なものを見出していく物語でした。後者はシアターミクサにての上演、生い立ち貧しく野望を秘めた人間のきょうだいが明日をも知れぬいのちのノミやダニの曲芸団を率いながら、愛憎入り乱れる中、ノミやダニやネコや人間、すべての登場人物が自分の願いを叶えながらその短き一生をアナーキーかつ衝動的に走り抜けていく物語でした。

 立て付けは本当に正反対。ナビレラはバレエの世界が舞台になっているし、バレエのもつ「本来的で崇高な美しさへの望み」が人々を動かす基盤となっている。韓国のマンガが原作だから人同士の葛藤はあるけれど、きちんと家族主義的な協同の世界に収束していく。そして、世代がより若い世代の未来を開いていく物語。一方のダジュメリ曲芸団は本当に個々それぞれのしょうもないと言ってもいい望み(例えば人間の血を吸うことであったり、害虫を駆除することであったり、練習し続けることであったり、酒を飲んで酩酊することだったり、お金を儲けることであったり、人の目を引くことであったり)」に突き動かされ、人と人の関係は裏切りと変節の連続で誰が見方で誰が敵かとわからない状況。愛が溢れる世界なのに混乱は混乱を呼び、真っ逆さまに終末に向けて転がり落ちていく。ローリングストーンの精神ここに極まれりでした。シアタークリエの明るい光の中で透明感のある舞台と、カラフルな色合いと温かさと複雑さに満ちながらもどこか埃っぽいミクサの美術も対照的だったなあ。

 そんな風に大いに方向性の違う物語ながら、非常に近しいテーマを感じておりました。それはいったん爆発し始めた「いのち」の刹那の、でも永遠の輝き。環境は違えど、主人公がアナーキーに、世の常識を覆しつつ疾走していく、そのエネルギーに自分の心がどうしようもなく掻き立てられて舞い上がっていく疑似経験。どちらの舞台も「いのちの短さと刹那さ」に認知症者の残された時間とダニの寿命という形でまっすぐに焦点を当て、どんなものにも代えがたい「自分の望み」に常識をかなぐり捨ててまっすぐに向かっていく姿は、還暦を迎えた自分の心を揺り動かしてくれたように思います。

 理想に向かっていくために未来を見据えて一歩一歩進んでいくことと、それでも訪れる崩壊を身の内に宿してそのアナーキーさを自分の歩みをブーストさせること。一見両立しがたいものが、実は一体であることを「わかってしまうこと」。だからこそ、「意味」が生まれるのかなあと、自分でもてんででたらめなことを言ってるようにも思うけれど、言いたくなる、言わなければならない何か共通して感じた2つの舞台でした。やっぱり舞台での出会いは本当に他に代えがたいものがあるなあと改めて思うのでした。