ラボを捨て、ビーチに出よう

Love-tuneから7ORDERへ:どこにいたって君がアイドルだ

ミュージカル「October Sky -遠い空の向こうに- 」の感想ともつかない感想

 顕嵐ちゃんこと阿部顕嵐くんが出演するミュージカル「October Sky -遠い空の向こうに- 」をシアターコクーンで見ました。10月12日ソワレと、10月16日マチネの2回。お席にも恵まれて、とっても若い主要キャストとそれを取り巻くベテランキャストがしっかり手を携えて日本初演となる舞台を作り上げておりました。そんなところもとってもコクーンっぽかったなあと。
 主演のホーマーを演じるのはこのところ色々なところでお名前をうかがう甲斐翔真くん。今回のお話はこの主人公のモデルとなった方の自伝がベースになっていることもあるのか、本当に主人公らしい主人公による舞台をしっかりとその看板を背負って唄い、演じていらっしゃいました。背も高くて、がっちりした体型だけれど、とても上品さでふわっと柔らかな存在感。ホーマーの夢見がちでおおらかで優しいところがよく似合ってましたし、ちょっとした修行だなあと思うくらいのたくさんの楽曲をしっかりと歌っていらっしゃいました。12日(初日から約1週間)より断然16日の方がよかったように思うので、これからどんどん伸びていかれる方なんだろうなあと感じました。ちょっと若い頃の岡田将生君に似た感じがあったような。
 その主人公の友人であり、一緒にロケットを作る夢を共有する仲間の3人が、顕嵐ちゃん演じるロイ・リー、井澤巧麻君演じるオデル、福崎那由他くん演じるクエンティン。彼らは、少し斜陽が見えてきたウエスト・バージニアと言う炭鉱の町で、昔からの価値観やしのびよってくる貧困に苦しめられつつも、「ロケット&宇宙」という新たな夢を追いかけていく。そして、自分たちの限界を感じつつある大人たちの陰に日向な支援を受けて、自分たちの力で新たな世界への扉を開いて、新たなアメリカン・ドリームを叶えていく若者を演じていました。でも、物語の向こうには、アメリカン・ドリームが実際にはあるんだけれど、まだまだ未知数のひよっこで、元気さと仲間を思いやる優しさだけが取り柄のような3人。でも、そんなイカさない町で、夢の芽を見つける少年たちを本当に生き生きと3人とも演じていました。このお芝居は、かなり歌重視なミュージカルだったけれど、こと「演じる」ことにかけては3人の存在感が凄かったなあと。
 オタクで仲間外れにされていたけれどしっかりと知識とロケットへの情熱を持っていたクエンティンを福崎くんは小さいけれど熱のこもった骨太の逞しさを伝えてくれていたし、すぐに死ぬことばっかりなジョークを言っちゃうオデルの「ここに生まれた」若者らしい繊細さと不安定さをあっけらかんと楽しく(きっとその楽しさは自分の闇を悟られたくないオデルの内心でもあるだろう)演じていた井澤くん。そして、義父のDVに苦しめられつつも、めげずに元気いっぱいに、ちゃんと彼女も作って、新たな文化であるロックンロールに夢中になりながらしっかりと生きているロイ・リーを顕嵐ちゃんが本当に生き生きと瑞々しく演じていたなあと。ロイ・リーも地元で炭鉱で働くしかない・・と思っているのに、でも、その元気さは溢れんばかりで、ホーマーをはじめ、仲間たちを元気にしていく、そして、それがいつしかロケットに繋がっていくんだよね・・。置かれた環境がどのようなものであっても、子どもたちや若い人たちの、純粋な元気さや生き物としてのエネルギーが、未来を拓くというこの舞台に溢れている、その方向性をロケットボーイズの4人がしっかり作ってくれていたなと思うのでしたよ。

 個人的には今回の顕嵐ちゃんの演技はとっても好きで。かっこいい、超絶美形っていうだけじゃなくって、ダンスが上手いだけじゃなくって、ああ、この人はこんな風に生き生きと魅力ある普通の男性、生きているだけで美しい命を演じられるんだなあと初めて知った気がするんですよね。上から目線な言い方になっちゃうけれど、演技の幅が広がって、どんな役でも魅力的に演じられる俳優さんになっていくんだなあと目から鱗みたいな気持ちになりました。今回は、歌の部分が少なかったのはミュージカル出演っていうことを考えるとちょっと残念だったけれど、この魅力的な演技で、舞台でも、そしてテレビドラマでもどんどん活躍の場が広がればいいなあと感じました。
 さて、それを取り巻く大人勢、女子勢のみなさんのことも歌もお芝居もストーリーのこともどんだけ書いても尽きせぬところがあるんですが、物語の中心となっているホーマーとその父で炭鉱の現場責任者のジョンとのすれ違いであったり、ぶつかり合いであったり、その時代性にやられたのが、そこを書き留めておきたいと思います。なんていうかジョンがある意味とても可哀想、それは歴史の中で生きている人間として誰にでも起こりうる可哀想さであり、だからこそ歴史は進んでくんですけれど、それを深く描き出せていたなあとおもいました。
 舞台は、スプートニクの打ち上げに成功した1957年。ちなみにこの年はロックンロールという音楽を世に放ったチャックベリーがファーストアルバムを発売した年でもある。この舞台で炭鉱事故でなくなったバイコフスキーが17年前にポーランドからやってきたという1940年はちょうどナチスソビエトポーランドに侵攻した頃。そんな国を追われた人々が絶頂に至ろうとするアメリカを頼ってきたんだろうね。そして、第二次世界大戦アメリカの国力・軍事力を担っていた石炭(そこから工業が大発展した)の担い手であり、そんななところにもプライドを持って炭鉱の二代目として現場監督的な立場で働いてきたジョン。でも、おそらく石炭は石油にとって代わられるようになっていて、経営的にも行き詰まってきて、そしてその頃最大の組織率を誇るようになっていたユニオンと対立の激しくなり、一番大変な時には現場で体を張っている。頑張っているのに、何か報われなくなっている、そんな思いはジョンにも積み重なっていただろう。そして、妻も、息子たちも、仲間も、そのプライドで気づきあげられてきた城を、未来が閉ざされる場所だと思い始めて、新たな世界を夢見ようとしている。ほんと辛いよ・・これは・・。
 そんな辛さをジョンを演じた栗原さんが本当に等身大に演じていて、ものすごく身につまされた。息子の夢を叶えることは、自分の夢の限界を悟ること。でも、夢の形は変わってしまうけれど、その過去があったからこその未来。ホーマーも言ってた「石炭は鉄鋼を作り、そしてロケットに繋がる。みんな繋がってる」ということ。年をとると誰しもそういう時点に到達することもあるんだろうけれど、それを歴史の中で見せてくれたストーリーはとてもよかったなと思いましたね。だからなんだけれど、ホーマーとジョンが理解し合う過程に、ホーマーが前の世代が築いてきたもの、それへの愛着への理解をもっと見せてくれていたらなとそこだけ引っかかってたりもしますね。なのが、ちょっとだけ残念だったな。たぶん、ホーマーが父の代わりに炭鉱に入る経験をしているので、きっとそれを理解したんだと思うんだけれど・・・。
 まあ、そんな風に色んな事を感じつつも、細かく歴史を感じさせてくれる脚本(色んな知識があるとまた見方も変わってきますね)や、ベテラン勢の歌唱(特に女性陣の歌唱が力強くて、バイタリティ感じました!)に、ああいいもの見せてもらったなあと素敵なお芝居に連れてきてくれた顕嵐ちゃんに心からお礼を言いたいです。

 さなぴー出演のキルミーアゲイン'21も、ながつのタンブリングも、萩ちゃんの舞台IDも、そしてこの舞台も一つの夢の終わりがまた次の夢に実は繋がっていくというお話だけれど(まあ物語ってだいたいそういうものかもしれない)、本当に表現の仕方は様々で、俳優さんたちの能力も様々で、それをこの短い期間で集中してみることができたのって凄いなあと思うんですよね。7ORDER応援してると色んな界隈を垣間見ることができてほんと楽しいんですよ。深くどっぷりその世界にっていう感じにはならないのは少し残念であるけれど、一つの船に乗ってて世界旅行してるみたいな感じはあって、そういう広く見るってことできるのはほんとありがたい。この「広く、広く」の方向性がいつまで続くのかはわからないけれど、その普通じゃないアプローチが何をもたらしてくれるのか本当に楽しみだなあと思うのでした。