ラボを捨て、ビーチに出よう

Love-tuneから7ORDERへ:どこにいたって君がアイドルだ

舞台「死神遣いの事件帳-鎮魂侠曲-」感想(ネタバレたぶんあるよ)

 安井くん出演の舞台「死神遣いの事件帳-鎮魂侠曲-」をサンシャイン劇場に見に行きました。その前に7月23日の初日の配信も見ていました。あと1回、劇場で見る予定ですが、まずはざくっと感想をまとめておきますね。いわゆるネタバレ的なこともあるやもしれませんので、気になる方はご注意をば~。

 さて、お話は、この舞台の前編にあたる映画「死神遣いの事件帳-傀儡夜曲」から約1年後から始まります。新之助は権左、義助、伝吉と一緒に「鬼八一家」を構えて、任侠として荒っぽい方法ながら困っているお江戸の市中の人たちを助けることを邁進しております。死神の十蘭も、幻士郎をなくしてからも死神の世界に戻ることができず、新之助の下に身を寄せる形で早1年を過ごすこととなっておりました。そこに、市中を騒がす謎の辻斬りやら、弟を探して欲しいというお菊が現れて、その解決を引き受けた新之助たちの冒険譚とそこで明らかになってくる死神・十蘭の過去・・といったテイでお話は進んでいきます。そこに再び現れる死神・百目鬼、謎の大変魅力的な用心棒天元とその配下の西洋死神メメントとヴェリタス。新之助の育ての親ともいうべき羅厳親分。映画から引き続き登場する保科正之も怪しい活躍。一体、新之助は江戸の、そして十蘭の危機を救うことができるのか・・そんな冒険大活劇でした。

 お話はとてもストレート。今回のヒーロー新之助は、喧嘩っ早いし、まあ暴力的ではありますが、自分が決めた正義の道をまっすぐ貫き、弱気を助け、悪しきをくじく。色んな人(死神も・・)の思いや命を全部その肩に背負って、まっすぐ前を向いて明日を切り開いていく、ヒーローとしての成長がしっかりと描かれておりました。その背景として、映画で彼が亡くした人たちのことがしっかりと描かれ(名前だけならその亡くなった幻士郎と一八の方が頻出していたなもです!)、だからこそ新之助は成長する、十蘭や仲間と共に。そして、もう誰も亡くしたくないという覚悟を決める。鎮魂侠曲という副題はそのことを伝えてくれている。2020年、コロナの流行で色んな形で苦しめられるこの世の中だからこそ聞きたかった言葉がたくさん散りばめられた舞台だったと思います。そして、その大きな強さと芯の明るさでしっかりと背負うという人間の大きさ、ひたむきさを新之助演じる崎山さんはしっかりと表現されていたなあと感動したのでした。きっと、昔から、私たちが大きな厄災に襲われるたびにこういう「物語」が紡がれたんだろうな・・とまだまだ大きな不安の残る東京の街を歩きながら色々と思いを馳せる帰り道となりました。

 そんな風に、どこかでくぐもった心を解き放ってくれる物語だったのですが、何より楽しかったのはそんな風に勧善懲悪なストーリーながら、登場する人物たちがみな魅力的にしっかりと描かれて、全員が活躍する舞台だったこと。今回、キーマンといってもよい百目鬼の一筋縄ではいかない魅力、人々を支配する神になりたいと野望を抱く天元の人たらし的で文武両道なオールマイティな魅力(あのすぐ人にぐっと寄っていく演技の蠱惑的だったこと)、羅厳親分のこれこそ侠客といった立ち居振る舞いやセリフ回しの素晴らしさ、そして憎めない義助に伝吉。そして、とにかくダンスが上手い権左。飄々とした保科様も本当によくって・・その上にお菊&喜三郎のお話もあって、本当に満足度が高ったです。さすがは毛利さんの脚本だなあと惚れ惚れしました。

 中でも、応援している安井くんが演じる十蘭のストーリーの素晴らしさ。おそらく充て書きなところがたくさんあると思うのですが、500歳越えなのに少年感が溢れていたり、二面性の表現とか、生き方の複雑さとか。でも、とにかく小さくて可愛いを周囲の動きで見せてくれるところ。天元を始め色んな人に頭ポンポンされる十蘭のなんと可愛かったことか。安井くんの持つ特性を物凄く考えて活かしてくださった脚本に演出だったように感じたし、安井くんのパブリックイメージ(あざとさみたいなのね)の超え方の一つの形を見せてくれたように思いました。やっぱり外部舞台って面白いな~。安井くんのダンスも殺陣も、実際に舞台で見ると、こんなに早く細かく動ける、軽くて、不思議な存在感を醸し出せる俳優さんだったのかと目からうろこでしたよ。この十蘭の雰囲気は唯一無二なものだし、おそらく、カメラを通してはわからない、舞台で他の人と一緒に演じてこそ感じられるものなんだろうなあって感じましたね。そして、物語の諸元に戻る、ラストの十蘭の大切な大切なセリフ。もうあの決まり方がばっちりで、もう目から星が溢れるわ、溢れるわという・・・本当に安井くんが誇らしかったです。

 今回のストーリーは勧善懲悪なスタンスは揺るぎのないものであるけれど、天元の「内面の欲望を開放しそれまでの価値観を揺らがす」という方向性とか思想が、十蘭の全体性みたいなものを蘇らせて、危機に陥るけれど、そこを踏まえてもう一度自分の生き方(死神だけれどw)を選び直すみたいなストーリー展開がめちゃ痺れましたよ。幻士郎とはまた違う、十蘭と新之助の対等でまっすぐな関係性でお互いに保護しあう関係性にもやられましたね。前にも書いたけれど、その「揺らぎ」を起こす谷口さんの天元の演技が本当に魅力的と言うか色気がいっぱいなんですよ。セクシーと言うか、こうギューッと小さい十蘭を後ろからハグする天元、本当に反則でした。もっと見たかったけど、きっとドロドロになるから、あのくらいがいいんでしょうかね?そんな天元と十蘭の間の色っぽさ思うと、全部背負う生き方をしている新之助は、今回本当にヒーローだったけれど、どこかでもう一度揺れる時がくるのかもしれないし、それは幻士郎さんが戻ってくることと関わってきそうだし、でも全部羅厳親分は承知なのよ・・そんな物語もみたいなあって、心から思うのでした、はい。

 さて、久々の劇場での観劇。生の舞台ならではの広い視点、多視点なビジュアル。それは、セリフもそうだったと初めて感じましたね。俳優さんたちが同じステージの上で、それぞれに語る言葉の力強さ。一個一個も聞こえるし、同時に聞くこともできる。そんなところも映像とは違うんだなあって思いました。ともかく、身体にビリビリっってくるのは劇場ならでは。そして、お芝居が終わった後に劇場一杯に響く拍手のいつまでも鳴りやまない音。劇場に行かないと聞けない音とか声とかあるなあと改めて感じるのでした。そして、何より、心置きなくお芝居を見ることができたのは、主催者様、スタッフ様、そしてキャストの皆様の感染予防対策のおかげですね。素晴らしい体験をありがとうございました。本当に大変なことばかりだとは思いますが、どうか最後まで無事で駆け抜けていただきたいなあと思うばかりです・・・。