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「えんとつ町のプペル~THE STAGE~」のストーリー

 今回の「えんとつ町のプペル~THE STAGE~」では原作絵本から大きなストーリー改変がなされている。ストーリーは原作の西野さんのポリシーの下、無料公開されているのでもしまだの方がいらっしゃったらみてくださいませ。

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 大きな変化としては、ひとつはえんとつ町の成り立ち、つまりはなぜ人々は「星」を見なくなったのか、に関するお話が加わり、もう一つにはルビッチやプペルに力を貸す人々が現れたり、町の人々の回心が描かれていること。特に、一方的にプペルやルビッチをいじめていたアントニオが、実は自分も星を見ていたけれど、異端審問所の方針や周囲に合わせるためにそれを黙っており、「星はある」という信念をゆるぎなく持つルビッチやそれを無垢な心で支えるプペルの姿と争い触れることで、大きな葛藤を持ち、最後には彼らの味方になるというくだりは、アントニオを演じた皇希くんの生の感情の発露がとても感動的で、このTHE STAGEの白眉の一つだなあと心打たれた。いい子なんだけれどどっか窮屈にも見えた佐久本くん演じるデニスが心が解放された途端に素晴らしい(そして精度と安定性の高い)アクロバットでそののびのびぶりを体いっぱいに表現していてとても素敵だった。

 一方で、星の存在を隠し、町の人々の夢を奪うかのような行動をし続ける異端審問所のベラールにも自分たちが理想とする「経済的に豊かな国」の像があり、その達成のために動いている様子が描かれる。経済的な豊かさがなければ、という信念と正義を守ることに向かって邁進し、その結果偏狭な考えに陥ってしまうのだけれど、それがひとつの正義である(あったというべきか)ことを、ベラール役の尾関さんの気品ある姿や立ち居振る舞いとその静かな狂気性がしっかりと伝えてくれていると感じた。個人的には本当に含みと背後の世界観を感じさせてくれる尾関さんのベラールが大好きだった。

 そして、その対極にある、すでに自分の意思を持って新たな価値観で生きようとしている人々。今回詳しく描かれたなだぎさん演じるルビッチの父ブルーノと町田さんの母ローラ。ブルーノの歌の大サビ部分「晴れた空にひろがった輝く千の光をこの胸のときめきを独り占めにしてな るものか。愛する人に伝えよう。この胸の高鳴りを」はこのTHE STAGEの本当の主題テーマと言っていいくらいのもの。ルビッチをたくましく育て、「伝えたい」という思いをルビッチに伝えた親の愛のようなものをとても感じた。更に、えんとつ町の地下やえんとつの上で暮らして自分の理想やドキドキを追っている谷津くん演じるダンさんや北乃くん演じるスコップ。3K現場なのに安全第一とホワイト職場を心掛けるダンさんの優しい生真面目さ(だから疎んじられてしまうという究極の歪みの重さ、辛さをワンシーンだけで伝えてくれるスーさん役の宮下さんのお芝居の鮮やかさ)、地下にいくことで自分だけのドキドキを見つけにいこうとする北乃くんの賢くて楽しくて躍動感のあるお芝居もほんとうに素敵だった。若い役者さんたちが理念と実態を豊かに描かれた役を思う存分演じている姿は素敵だったなあと。

 しかしながら、今回の舞台の一番の改変点は、主役の二人、ルビッチとゴミ人間プペルの関係性が逆転に近いほどかわっていること。原作では心の奥底に夢を秘めているけれどそれが出せず孤独のうちにいるルビッチを、プペルが空飛ぶ船を作り星を見せて励ますというお話だった。でも、このTHE STAGEでは、人々に星を見せるために空に登って無煙火薬で煙を払い、人々に星をみせたいという希望を持つのはルビッチ本人であり、プペルはあくまでもそれを助けるというお話の流れになっている。そして、そのプペルの役割は、その生まれたての無垢な優しさでルビッチの夢をまっすぐに信じ、励まし、図らずもながらも夢をみることを諦めた町の人々に痛いほどにまっすぐ伝えることで、彼らの気持ちを揺り動かすことだった。あくまで主体はえんとつ町に住む人々であり、プペルは彼らに寄り添う存在になっている。

 加えて、プペルがルビッチの父であるという結論の存在感はやや弱まり、クライマックスのシーンでプペルに憑依したブルーノは「こんな素晴らしい星があるのを忘れてしまっていた。再び見せてくれてありがとう、チビ」とルビッチの勇気に感謝を寄せて、黄泉の国へ去っていくのだ。言いだしっぺのブルーノでさえ、この星空を見ることができたことへの関与は弱まってる。そして、フィナーレでえんとつ町の人々の中に「心優しいゴミ人間プペル」として、優しく心を打つ笑顔を満面に浮かべて、戻ってくるのだ。プペルはプペルとして、ルビッチや町の人々との関係を築こうとしているのである。この場面、本当に感動的で毎回泣いてしまっていたけれど、自分が自分であることの尊さを伝えていてくれたと感じた。。

 これはもちろん私見だが、絵本で伝えたったことが夢を諦めかけていた孤独な魂を異端の存在が直接的に救う話でありあくまでも個のお話だったけれど、舞台が伝えたかったのは「心優しい存在」が傍にあることで、人は強くなり、夢をかなえ、その力は夢を諦めかけている多くの人々を勇気づけ、世の中を変えていく端緒となりうるというコミニティのお話だったんだろうなあって感じている。それは何かの進化系という構図ではなく、絵本が読み手と聞き手という一対一のモードを持つものであるけれど、舞台は多数の観客が同時に同じ場で共有し合うというモードを持つという違いに発するように感じている。それをしっかりわかって脚本化している西野さんは凄いなあって感じるし、それを舞台のかたちにのせた演出の児玉さん、そしてキャラクターとこの世界の役割をしっかりと表現したキャストのみなさんに本当に心から感謝するのだった・・。

 世界を切り開くための胆力と信念をしっかりと表現し舞台をしっかりと掌握していたルビッチ須賀健太くんの演技。人が変わることの一番の触媒である「無垢な優しさと思いやり」をひりひりするような繊細さと無骨さでピュアに演じ、歌い踊った萩谷慧悟くんの演技。二人のお芝居の特徴にこの舞台のエッセンスが詰まっている、そんなことからもこの舞台はとても幸せな舞台であったと思うのだった・・。またこのあたりは次にでも。