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舞台版『PSYCHO-PASS サイコパス Chapter1―犯罪係数―』感想

 アニメ未見の私ですが、舞台版『PSYCHO-PASS サイコパス Chapter1―犯罪係数―』、11月6日の夜公演が自分的楽日で全部で4回見ました。4回とも初回見た時と同様に、「犯罪係数0」というドミネーターの判定でラストになるところで、そのすべての謎が出そろった感じに「キタキタキタ――!!。うぉぉぉー。どうなるんだ、一体!!早く次を見たい~」と大興奮していました。この純粋に「次を!」という気持ちが沸き立つ感じは本当に久しぶりで、とても素直にいい作品に出合えたなあと感じました。特に、カーテンコールでも全キャストがまったく役の中にいる(久保田さんだけはさすがに最後の最後に一瞬微笑まれますが)ことがまた更に「つづく」感を感じさせるなあって、ついつい大きな期待をかけてしまいます。どうか、今のままのキャストで、後編が作られますよう、心からお願い申し上げる次第です。     

 こんなに純粋に「次」を期待しちゃうひとつの要因が、自分がまだアニメサイコパスの第1期を見終わっていないからかもしれません。自分の初日が終わってから、1話から6話まで見たのですが、アニメも面白くて、逆に「これは最後まで知らない方がいい」と判断し、きっとあるだろうChapter2を楽しみに待っている次第です。ネタバレ好きな自分にとっては、ネタバレ厳禁で臨む人の気持ちってここにあったんだなあってちょっと新鮮な気持ちになっています。
 しかしながら、そんな風に6話までアニメを見て、舞台に戻ってくると、この舞台で自分が見たモノが何なのかより理解が深まる気がしました。ひとつのポイントは、ほぼアニメのままの台詞を使って、更にうまく前後の流れを紡いで、この2時間のステージにまとめているところ。それにより、基本のストーリーのロジックの枠組みを、私のような初体験へ、ストレートに伝えようとしているように思えました。狡噛が抱える最大の問題の出発地点であり、今また新たな展開を迎えて着地しようとしている、その過去と現在とおそらく未来をうまくつないでいくこと。佐々山という「過去の」人物が、ステージの上に置かれることによって、一方で、槙島と狡噛の出会いという未来の時間が冒頭で置かれれることで、その3本の線が旨く絡み合いながらも、自分的には時空の迷子にならずに、見通すことができた気がします。

 一方で、舞台ではより感情と肉体を表現することに大きくウエイトが置かれていた気がします。それをストレートに感じたのが、最初の縢と常守との会話からシビュラに抑圧、排除される者の怒りや悲しみが大きく描かれてれていたこと。もう今回の橋本くん演じる縢くんは本当に魅力的だったんですけれど、アニメではその流れじゃなかったところでの悲しみや怒りの吐露がぐっとこちらの心情を引き付けてくれました。征陸さんのおおらかさ、六合塚さんの底の知れない冷静さと反面の温かさ、唐之杜さんの諧謔性、そして宜野座さんの並外れた愛ゆえの心配性と憎悪(に私には見える)。彼らの感情をクローズアップされた描き方により、当然のことながらのキャラクターへの親しみも、舞台上での存在感もストレートに伝わるようになっていたなあって思います。

 特に応援している真田くん演じる宜野座さんの心の中にあって体中から溢れんばかりになっている「何か」のその切羽詰まった感じ。すぐ上にも書いたけれど、身体にまとわりつくように、頭からその「何か」が立ち上っているように見えるお芝居には始終ジワジワしっぱなしでした。実は少しだけアニメのネタバレを踏んでしまったてから見た麻雀シーンを見つめるあの目線の思いの辛さも甘さもすべて五感が含まれたような目線には本当にやられました。本当に感情を演じるのが上手い俳優さんだなあと久々の舞台(外部の演劇舞台だと2016年10月ぶり)で感じ入りました。

 さて、くだんの「感情と肉体」。それは人物像を掘り下げるだけの役割でなく、一つのテーマとしてあるのかなと感じたのが、このステージの標語と言ってもいいくらいの頻度で出てきた「頭じゃなく心で理解する」というセリフ。これが、佐々山の存在がこの世界(狡噛が変容していく世界)にもたらす意味の核心部分であるように今のところ感じています。そして、それをより強化する舞台の設え。収容所の囚人たちの肉と骨と情念をたたき出すような力強い歌とダンス。観客の視線を自由にさせず、肉体の縛りを強調するような迷宮のような高低差がある回る舞台。そして、超未来のアニメとは反対をゆくようなうらぶれた街並みでたくましく生きる浮浪者たちの群れ。やはりここでも肉体と感情に引き戻す意匠が働いていように感じるのです。

 その最たるものは、やはり狡噛慎也の肉体と直感的判断の表現。個としてあまりに見事な、スターとしての揺るぎない姿を存分に見せる久保田さんという俳優がこの舞台にいる意味を心に突き刺してくれるChapter1でした。このような中で、宜野座さんの心と体をコンパクトな動きで十二分に発揮している真田くんが、Chapter2ではどのような立ち位置を、物語への関わり方を見せてくれるのでしょうか。本当に本当に楽しみです。